あれは大学一年の夏休みの出来事でした。
僕は友達と遊ぶために指定された待ち合わせ場所で友達を待っていました。
僕が待ち合わせ場所に着いて少しすると、後ろから「おーい」と声が聞こえました。
振り返ると、一台の車が僕の方に近づいてきていました。
そして友達が助手席の窓から顔を出して手を振っていました。
友達の横の運転席には僕の知らないおじさんがいました。
僕の前で車が停まると、運転席の窓が開き、そのおじさんが顔を出して僕にこう言いました。
「初めまして。よろしく。どう?よかったら今からコーヒーでも飲みに行かない?」
着いた先は個人で経営しているコーヒーショップで、豆などを店頭で販売していました。
中に入ると50代くらいのおじさんが一人座っていました。
僕は席に座ってそのおじさんと話をすることになりました。
宇宙の話を聞かされました。
内容がとても面白くて、興味津々で聞いていました。
友達も僕の隣に座って、ウンウンとそのおじさんの話を聞いていました。
しばらくすると、店の中に他の人がちらほら入ってきました。
僕はその人たちとも自己紹介をして少しお話をしました。
そうしているうちに、その中の一人が口を開きました。
「じゃ、今からちょっと別の場所に行かない?」
(おい、マジかよ…)
僕は男たちに囲まれて、書類とペンを持っていました。
そこは綺麗な建物の中でした。
現実とはかけ離れたような、大理石でできた綺麗な空間でした。
そんな綺麗な建物の中で僕の人生の進む方向が変わろうとしていました。
「ここに名前と住所と電話番号を書けばいいから」
書きたくありませんでした。
しかし、僕は文字通り男たちに囲まれていました。
僕はアメリカのたくましいリア充青年でもなく、人見知りのヒョロヒョロ大学生だったのでペンを走らせる以外選択肢はありませんでした。
全ての項目を書き終えると、今からやることがあるからと2階に連れて行かれました。
2階では入信の儀式が行われました。
この日から僕の人生は良くなっていくとのことです。
それから度々僕のケータイに電話がかかってきました。
「あぁ、もしもし?今度の日曜日に集会があるんだけど、松崎くん来れるかな?」
僕は全て断りましたが、入信の日、書類に住所も書いたからその内家に来られるんじゃないかと思うと憂鬱になりました。
それから一ヶ月くらいすると、突如全てが終わりました。
友達から電話があり、お父さんと一緒に今から僕の家に行くとのこと。
友達とその友達のお父さんと僕の三人で車に乗ってあのコーヒーハウスに向かうことになりました。
どうやら友達がお父さんに宗教をやっていることを告白し、今後はこの宗教のために生きていきたいと言ったらお父さんにバッキバキに怒られたみたいで、長時間説教された後に目が覚めたようです。
そして僕を最近宗教の道に引きずり込んでしまったことをお父さんに話すと、二人を辞めさせるべくお父さんが車で僕たちをコーヒーショップに積んで行ってくれるとのことらしいです。
ちなみにその友達のお父さんは息子が宗教から目覚めた後すぐにコーヒーショップに電話して電話口でブチ切れまくったらしいです。
そんなこんなで遂にお別れの時が来ました。
僕と友達はコーヒーショップのおじさんの目の前に立ちました。
「今までお世話になりました」
友達が一言お礼を言いました。
するとそのおじさんは恨みがかった調子でこう言いました。
「お前たちは、絶対にこの日を後悔する」
二言目はなく、僕たちはコーヒーショップを去りました。
本当に申し訳なかった。申し訳なかった。
以後大学生活でその友達から宗教勧誘の罪悪感で謝られることが度々ありました。
もしあのままあの宗教を続けていたらどうなっていたんだろうと思うことはあります。
しかし今は辞めることができて良かったと思います。
僕は宗教自体を否定しているわけではありません。
現に僕の他の友達は、とある宗教に入ることによって救われ、今は自分の人生を謳歌しています。
そして辞めた僕もその後は大学生活を謳歌しました。
人によって宗教も合う、合わないがあるんでしょうかね。
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